秘密基地

小学2年生の頃、山を切り開いてできた新興住宅地に引っ越しをした。

出来たばかりの住宅地で、学区の小学校へ行くには

まるでけもの道のような、藪を分け入って続く通学路を歩いて通っていた。

 

近所には同年代の友だちもなく、両親が働いていたため

暇を持てあました私は、いつも一人で遊んでいた。

 

家を出てふらふらと一人で歩いていく。

たまに工事車両のダンプカーが通るほかは、

すれ違う人もない砂利道を

ただ海の方角へ向かって歩いていく。

 

そうしてしばらく歩いたところに、小さな岩山があった。

好奇心旺盛でおてんばだった私は

大小の石に足をとられながらその岩山を上っていった。

足が滑って膝こぞうを擦りむいたり

土埃が運動靴で茶色くなったりしたけれど、かまわずどんどん歩いた。

 

すると

視界が開け、てっぺんにたどり着いた。

草も木も生えていない

何もない岩だらけの場所。

 

私はそこに岩を積み上げ円を描き

小さな秘密基地を作った。

遠くには海が見える岩山の秘密基地は、

誰にも知られることがない私だけの場所だった。

自分だけの場所と思うと、わくわくした。

 

以来、学校が休みになると

私はそこで過ごすようになった。

岩山のてっぺんの秘密基地で

風に吹かれながら想像の翼を広げ

心を遊ばせた。

 

 

転校した学校で友だちが増えてくると

秘密基地からはいつのまにか足が遠ざかっていった。

 

 

どのくらいの年月が経っただろう。

 

ふと思い出して

岩山に足を運んでみた。

 

岩山の周辺は開発が進み、風景が変わっていたけれど

秘密基地はあの頃のまま、まだそこにあった。

だが、私が思っていたよりも岩山は小さく

そして、秘密基地もとても小さかった。

 

 

今はその土地から、遠く遠く離れた街で暮らしている。

 

 

最近、ふとしたことから

何十年も忘れていた秘密基地のことを思い出した。

 

今は、その岩山も崩され、造成地として整備され

風景もすっかり変わっているだろう。

新しい街ができているかもしれない。

 

秘密基地から見えていた海はまだ

見えるだろうか。

 

いつの日かまた訪れてみたい。